慶河堂日報

ならまちのすみっこにある小さな小さな古本屋です。

さようなら、豊住書店さん

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豊住書店さんは東向北商店街の中程にあった、老舗の書店だ。
私が子どもだった頃、今よりもまだ奈良にたくさんの本屋があった。
私は福智院町のバス停横にあった小さな小さな書店でりぼんやなかよしを買う小学生のひとりだった。
コトーモールの二階にあった駸々堂(無印良品を経て現在は空き店舗のため封鎖されています)、三条通りと東向商店街の交差するところにあった駸々堂コミックフロア、新大宮には二階建ての啓林堂、大宮のマンションの下にあった小さな書店もマンガの品揃えがよかった。映画館の下にあった南都書林。
その他、名前も覚えていない、たくさんの書店があった。
また、現在も営業しておられる花芝商店街のベニヤ書店さんは高い本棚に所狭しと本が置いてあり、ベニヤ書店さんの真ん前の塾に通っていた頃は休み時間ごとに店内をぶらついて本を買った。
これらの本屋を友人と自転車を乗り回しながら回って本を買うのが、中高時代の私の楽しみだった。

しかし、その中でも豊住書店さんは特別だった。
マンガや雑誌は最低限しか置いていない。その代わりびっしりと本棚をうめていたのは歴史・文学の本だった。奥に行けば行くほど、棚が濃くなっていく。中学になって歴史オタクになっていた私には、他の本屋にはないその品揃えがたまらなかった。もちろん片っ端から本を買えるほどの財力はなかったが、昼ご飯代としてもらうおこづかいを昼を食べずにためてちみちみと本を買うのが私の学生時代だった。
未だにその頃に買った本が私の本棚にある。
今回閉店となることが決まってから、ニュース記事で豊住さんが奈良では最古の、全国でも数えるくらいの歴史を持つ書店のひとつだと知った。私は奈良を出て東京の大学に行き、しばらく働いて奈良に帰ってきたが、いつも変わらず豊住さんはあった。90を越えた祖母が若い頃からあったとは聞いていたが、豊住さんはなんと150 年を超える歴史を持つ書店さんだったのだ。

 豊住書店の創業は公称で大政奉還と同じ慶応3(1867)年。ただ、実はもっと古い文化13(1816)年に三重県伊賀市で出版業を営んだのが始まりとも伝わる。歴史関係の本を豊富に取りそろえ、文庫や新書も充実。本棚には「絶版」「当分重版予定なし」と印字した帯を巻いた在庫本も多くあり、古い本を探しに来店する客も多かった。
「奈良新聞デジタル」2021.10.17より

2020年、私が古本屋を開くことになり、「ならまちきたまちブックガイド」という新刊書店・古書店の地図を作るようになって、個人的に店主さんとお話しすることができた。
ブックガイドにも快く協力してくださり、未熟な私にアドバイスをくださったり、古い本を譲ってくださったりもした。
今後少し営業を縮小するという話は聞いていたが、まだまだ奈良の本屋の星としていつまでも輝き続けてくださるのだろうと、疑わなかった。
2021年7月に奥様が、8月に店長様がお亡くなりになり閉店なさるというのを聞いて、本当に驚いたし、哀しかった。ずっと——たとえ私が老いても——、豊住さんはずっと奈良にあるような気がしていたからだ。
2022年、JR奈良駅駅ビルの中にあった喜久屋書店奈良店さん、そしてもちいどの商店街と小西通りにある古書店フジケイ堂さんも閉まることが決まった。
奈良の読書文化を支えてきた書店さん・古書店さんが閉まる話は本読み個人としても、古本屋店主としても哀しい。
しかし、本屋をやりたいと奈良に来られた方も(私のしっているうちで二組)おられる。
奈良の読書文化が消えないよう、祈る。
さようなら、そしてありがとうございました、豊住さん。

店主ご夫妻のご冥福を心よりお祈りいたします。
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